岡晃平

・三つのグループからなる一つのチームで戦う

・一つのグループにつき七人の人間

・私の所属していたグループは一番ナメられている

・岡くんは二番目に強いグループに所属していた

・ドッヂボールのような雰囲気で殺し合いをする

・すごく体育祭みたいな感じ 

 

私のグループには坊主頭の活発でひょうきんな男がいたのを覚えている。そいつもまあまあポンコツだけど、私を含めた他のヤツらが規格外にポンコツだったので、自然と坊主頭がリーダーの立ち位置だった。そのことに坊主頭は満更でもないみたいだった。

 

対戦する二チームに所属する、それぞれ各三つの全グループが自己紹介をするタイムがあった。相手チームも味方チームも他のグループはみんなその自己紹介をバリバリに練習していたみたいで完璧だったけど、私のグループは全然練習してなかったのでグダグダになってしまい、他のチームがクスクス笑っていたのが聞こえた。でも坊主頭リーダーの声のデカさと気合はめちゃめちゃ良かった。

あと、その自己紹介タイムのときのみんなはイラストだった。イラストの姿で喋っていた。

 

どんなふうだったかは全然覚えていないけど、殺し合い開始のゴングは超盛大だった。

 

試合が始まると、予想外に私の所のグループが強くて、他のグループがギョッとしていた。すごい勢いで殺していた。坊主頭のリーダーなんてめちゃくちゃな勢いでバタバタ殺していた。

私はすっかりヒエーと思ってしまい、一人は殺したけど、絶対に捕まりたくなくて、追いかけたり追いかけられたりする人達の流れを避けて誤魔化しながら走ってた。

そしたら少し遠くから、岡くん(中学校の同級生)がスマホの画面をこちらに見せながら近づいてくるので「え?なに?」って言いながらそのスマホの画面を見てみると【カバーの付いた猫のトイレ本体を探してるんだけど、10000円〜15000円くらいで良いやつ知らない?】って、黒背景に白っぽい字で書いてあった。

「けっこう良いやつでも10000円もしないとおもうよ、Amazonとかで調べてみた?」って聞いてみると「いや」って何かを続けて言ってたけど何て言ってるのかは全然わかんなかった。

そのあとも何を話したかは覚えてないけど「なんか嫌だよね、日陰行こうか」って二人で歩きながらめちゃくちゃデカイすべり台の下に行った。すべり台の下には下級生も何人かいた。みんな捕まるのが嫌で来たらしい。

岡くんとすべり台の下で「早く終わんないかなー」ってダラダラしてると、すべり台の外から体育の先生の声(しらない声)で「オイコラア!!!!!誰がそんなとこで休んで良いって言ったんジャ出てこんか!!!!!出んかホラア!!!!!出んか!!!!!」って超怖い声量で言ってて、わりと外から見えるような所にいた頭のわるい下級生たちはしぶしぶ出ていったけど、私と岡くんはすごく奥のほうにいたので別に見つからずにそのままジッとしていた。

 

そのすべり台の下に隠れたまま試合が終わって、生き残った人間たちを先生たちが整列させて点呼していた。

坊主頭はボロボロになって死んでいた。

私と岡くんは死んだことにされた。

死んだことにされてしまったので、結局まわりに何もいなくなるまですべり台の下で動けずじまいになり、夜になって岡くんが「出ようか」と言ったのでそのまま二人で歩いて帰った。二人ともどこに帰ったかはわからなかった。

園子温

きのうは初めて園子温の映画を観て、おもしろくて元気が出たから、久しぶりにエプロンを着てお店に降りて仕事を手伝おうと思っていたんですけど

幸人さんに応援されながら幸人さんの後について、息を呑んでお店に入ると、入店のチャイムが鳴って、心臓もがんばりながら厨房に進むと涼ちゃん以外の家族全員が大集合していて

ギャーと思ったのも束の間に、おかーさんが「えっ!ネオちゃん無理せんでいいよ〜!?休んどきよ、無理に動くとキツイんやろうけんなあ〜!休んどっていいよ!」と言って、追うようにおとーさんが「あ、ああっ、ネオちゃん無理せんでください〜!」とニコニコ言って

幸人さんは、こっちを心配そうな感じの顔で見ながら「ごめんごめん、上がっていいよ、気をつけてね、ごめんねー」と言いながら急いでタイのアラ煮を客席に運びに行ったので、何か、想像していたより皆が皆のままで、気持ちがヤバかったのはわたしだけで、皆優しくて、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。


一旦外に出たものの、脳みそが部屋に絶対戻りたくないってダダをこねたように感じたので、そのまま右に進みながら、エプロンを適当に脱いで、脳みそが言うまま川沿いをずっと歩くことにした。


「こんなことしちゃっていいのかなー」「これ着地点どこ?」「夜なのにね」「危なくない?」「でももう脳みその信号的に考えて戻れないし」「めっちゃ川に光反射しててキレイ!」「車で通るひとが全員わたしに舌打ちしながらこっち見てる気がする」「それはマジで気のせいすぎる」「猫じゃらしある」


猫じゃらしをちぎってみたけど、猫じゃらしのふわふわの部分に小さい虫とかが付いていたらイヤだな〜と思ってすぐに捨てた。

そのあと彼岸花が一輪だけ咲いているのを見つけて、これがいいなと思って、折るようにして摘んだ。


少しすると川を渡れる橋が見えて、その橋を渡って、そこからありえないくらい長い距離をまっすぐに歩いた。

摘んだ彼岸花は、ずっとニギニギしていたら茎の部分がヘナヘナになってしまって、それでも花の部分だけはキレイだったので、なんつーか首の折れた女王みたいになっていた。


途中、高速道路みたいな雰囲気の長い橋みたいな形になっている道を通ったりもした。

その道がいちばん怖かった。

しっかりした歩道はあるもののマジで車しか通らないし、だからといってこんな所でわたし以外の人が通っても怖いし。

橋みたいな道路の両サイドには、もう永遠に空が見えなくなってしまったような高い壁があって、景色もわからなかった。

その壁のすき間に、錆びた小さい包丁が転がっていて、ちょうど彼岸花を持って歩くのにも疲れていたし、包丁と彼岸花はおなじジャンルだろうし、まあいいかと思いながらその包丁の横に彼岸花を置いた。


それからは、ただ知っている道を辿りながらアホみたいな距離を歩いて、だれにも見つからないようにしながら部屋に戻った。

けどなんとなく、まだ部屋はちがう気がして、行くところもなかったし、仕方なく屋根の上に登った。


お風呂場のおおきい窓を無理やり出ると、右側に錆びきったはしごがあって、そこを登ると屋根がある。

屋根っていっても屋根っぽくなくて、たとえばその屋根を横から透視すると凹のようなかんじ。

そこに二時間くらいいた。

半袖のままだったのでめちゃくちゃ寒かったけど、まだ部屋はちがう気がして、通る車を見ながら歌をうたったりしていた。


たしか石崎ひゅーいの歌をうたい終わったときに、はしごを降りた。

きっと幸人さんが消したお風呂場の電気が消えていて、月明かりにわたしの影ができていて、その影がまるで忍び込む怪盗みたいで格好良かった。


きたない靴下を脱いで部屋にもどって自分のアイフォーンの時間を見た。何時って書いてあったかは思いだせない。

お店に降りられるような気がしたので部屋を出ようとしたら、幸人さんの声で「ねお〜」って隣の部屋から聞こえて超ビックリして「ワー」っておもわずふすまの陰に隠れてしまって、そしたら幸人さんは隣の部屋の電気をつけてこっちに来て「おかえり、きょうはどこ行ってきたの?」って固まってるわたしの頭をなでながら猫なで声で聞いてきた。

だけど、わたしのコミュニケーションエネルギーが完全に切れているせいで、声もあんまり出なくて、フニャフニャフニャフニャ言ってると「ほらコアラのマーチ食べろ〜」って言いながらわたしの口の中に次から次へコアラのマーチを入れてきて、苺バージョンのコアラのマーチおいしくて幸人さん優しくて元気が出てきたので、きたなかった手を洗って幸人さんの手をにぎった。


幸人さんはラムネみたいなお菓子もくれて、ジュースもくれて、そのあと「オレ寝るから一緒においで」って言うので待ってたら「ねおちゃん体が冷たいから布団かぶっときな」って毛布をかけてくれて、返事して鼻まで毛布かぶって、寝る準備をしてる幸人さんの行動を目で追ってるとなんか嬉しくなってフフフ、フフフって布団のなかで小躍りをしたりした。


幸人さんが寝るまでしばらく布団でモゾモゾしていたけど、幸人さんの寝息がきこえだしたので、お腹もすいていたし一階に降りて味噌汁を温めた。

そしたら入り口から涼ちゃんが来て、「ねおちゃんごはん食べた?パエリア食べん?」ってパエリアを半分わけてくれた。

たぶんわたしの元気がないことを知っている涼ちゃんは、「いっぱい食べよ〜、貝も二つあげちゃう、あと鶏肉もつけちゃう、特別やけんな〜」ってニコニコしながらほんとうにいっぱいくれた。


わたしの食べるスピードが遅すぎて、さっさと食べおわった涼ちゃんは特別編みたいなコンビニで売ってるかんじのウシジマくんを読んでいた。

たまにおもしろいページがあると笑いながらわたしに見せた。

なのでわたしも、園子温の映画めちゃくちゃおもしろかったですよ、って話をした。


食べおわってお皿を洗って、涼ちゃんと話しながらそれぞれ部屋にもどって

わたしはいつもみたいに、元気があるときと同じみたいに、洗濯をして、お風呂に入って、お布団の掃除をして寝る準備をして、寝相がヤバくなっている幸人さんを真っすぐに直して、いとも簡単に眠りについた。